遺言能力 3

2 遺言能力の判断基準
⑵ 遺言の作成経緯
 遺言の作成経緯からいって,遺言者の「短慮」により遺言が作成されたおそれがある場合には,そのことを一つの判断要素として,遺言能力が否定されることがあります。

 

 例えば,公正証書遺言で,遺言者が中等度ないし高度な認知症状態にあったこと,これまでほとんど深い付き合いがなく親族でもない第三者に遺産を遺贈する動機に乏しいことなどから,遺言能力を否定した事例があります(名古屋高判平成5年6月29日判時1473号62頁)。

 

⑶ 遺言内容
 遺言内容が簡単なものであり,その意味内容を的確に認識することが困難ではない場合に,そのことを一つの判断要素として,遺言能力が肯定されることがあります。
 逆に,遺言内容が複雑なものであることを考慮し,遺言能力が否定される例もあります。

 

 例えば,遺言者が年齢に照らし,標準的な判断能力を有していたこと,遺言内容が,全部で8か条に過ぎず,相続に関する者が妻や子,孫という近親者だけであり,相続財産が不動産と預金のみであることから,遺言能力を肯定した事例があります(東京高判平成10年8月26日判タ1002号247頁)。

 

 他方,遺言者が高度の認知症であったこと,遺言書が,多数の不動産などの財産について複数の相続人に分けて相続させるというものであり,さらに,遺言執行者(被相続人の死後に遺言内容を実現する者)を項目ごとに2名に分けて指定し,1人の報酬について細かく料率を分けるものであるなど,複雑なものであったことなどから,遺言能力を否定した事例があります(横浜地判平成18年9月15日判タ1236号301頁)。