1 遺言能力とは
⑴ 遺言能力の意義
遺言内容を理解し,遺言の結果を弁識し得るに足りる能力のことを言います。
遺言者が遺言時に遺言能力を有していなかったと判断された場合には,遺言は無効とされてしまいます。
その場合には,民法の法定相続分の規定に従って相続が行われ,遺言者が遺言に託した意思が実現されないことになってしまいます。
逆に言えば,遺言時に遺言能力がありさえすれば良いのですから,相続開始時に被相続人が遺言能力を失っていたとしても,遺言は有効と扱われます。
被相続人に遺言能力がなかったとして,あとから遺言が無効であると争われることは,相続でしばしば生じる問題です。
⑵ 行為能力との関係
民法には,行為能力の制限に関する制度が設けられており,行為者に成年後見人や保佐人,補助人が付されている場合には,行為者は一定の場合に単独で有効な法律行為(契約など)をすることができないとされています。
しかし,遺言の場面では,これらの制度は適用されません。
ですから,遺言者に成年後見人や保佐人,補助人が付されていたとしても,遺言能力があれば,遺言者は単独で有効な遺言をすることができます。
ただし,遺言者が成年被後見人である場合は,医師2人以上が立ち会い,医師2人以上が,遺言者が遺言時には判断能力を喪失した状態ではなかったことを遺言書に付記し,署名・押印する必要があります。