2 遺言能力の判断基準
遺言能力の有無について明確な判断基準を示すことは難しいですが,相続開始後に遺言能力について争いが生じた事案では,おおむね次のようなことが考慮されています。
⑴ 遺言者の精神状態
遺言者が遺言時に(相続開始時ではありません)どの程度の判断能力を有していたかです。
相続開始後に遺言能力の有無について争いが生じた場合には,どのようにして遺言時の遺言者の判断能力を証明するかが問題となることが多々あります。
公正証書遺言を作成する場合には,遺言を作成する際に,公証人が遺言者に対して発問するなどして,遺言者の判断能力について一応のチェックを行っています。
このため,かつては,相続開始後に遺言能力が問題となった場合には,公証人に遺言者の遺言時の様子を証言してもらうことが多かったです。
また,遺言者が生前,施設や病院を利用していた場合には,医師が長谷川式テストなど,判断能力についての診断を行っていることがあります。
これらの診断結果は,当時遺言者が有していた判断能力についての重要な証拠となります。
さらに,生前遺言者のそばにいた相続人などが,遺言者の生前の様子について証言することもあります。
例えば,遺言者が相続人の身の上相談にあずかり,相続人に対して的確な助言をしていたことを,遺言能力を肯定する一つの判断要素とした事例があります(大阪高判昭和60年12月11日家月39巻1号148頁)。