●岐阜県,愛知県,三重県,及びそれらの近郊

相続財産の範囲

1 相続財産の範囲

民法は,相続が開始すると,被相続人に属した一切の権利義務は,原則として,すべて相続人が承継すると規定しています。
一切の権利義務には,個別の動産や不動産などの権利,債権・債務,契約上の地位など,あらゆるものが含まれます。

債務も相続の対象になりますから,相続により,相続人が多額の債務を負うこともあります。
その場合は,相続放棄や限定承認を検討する必要があるでしょう。

契約上の地位も含まれますから,賃借人や賃貸人の地位も承継されます。

被相続人が所有していた農地についても,相続の対象となります。
なお,農地法3条は,農地の所有権移転には農地委員会または都道府県知事の許可が必要と定めていますが,相続により農地を承継した場合には,許可は必要ありません。
ただし,農地のある市町村の農業委員会にその旨の届出をする必要があります。

2 相続財産の範囲につき争いがある場合

⑴ 遺産の範囲確定の必要性

ある財産が,生前被相続人に属していたものであるかどうかについて争いがある場合は,遺産分割の手続きをどのように進めるのが良いのでしょうか。

結論としては,遺産分割に先立って,調停や訴訟により遺産の範囲を確定した方が良いでしょう。
それは,次のような理由によります。
最判昭和41年3月2日民集20巻3号306頁によれば,家庭裁判所は,遺産の範囲など,遺産分割の前提事項について当事者に争いがある場合でも,遺産分割審判において,その前提事項について審理判断した上で,遺産分割を行うことができるとしています。

しかし,遺産分割審判において前提事項について家庭裁判所が審理判断したとしても,その前提事項には既判力が生じません。
このため,遺産分割審判の内容に不服がある当事者が,遺産分割審判とは別に,遺産の範囲確認のための民事訴訟を提起することは,妨げられないということになります。

このような遺産分割審判後の紛争の蒸し返しの恐れを考えると,遺産分割審判に入る前に,遺産の範囲について,既判力のある判断を得ておいた方が良いということになります。

⑵ 遺産の範囲確定の手続き

遺産の範囲の確定に当たっては,まず,遺産の範囲確認の調停  を申し立てる必要があります。
相手方の住所地が三重県内であれば,津家庭裁判所に調停の申立てを行うことができます。

調停が不成立となった場合は,遺産確認の訴えを提起することができます。
被告の普通裁判籍所在地(住所など)または被相続人の普通裁判籍所在地が三重県内であれば,津地方裁判所,津簡易裁判所に訴えを提起することができます。

なお,この場合は,共同相続人全員が原告または被告として関与する必要があります。(固有必要的共同訴訟といいます。)
関与していない相続人がいる場合は,訴えが不適法却下されます。

3 相続財産に当たらない財産

生前被相続人に属していた財産であっても,次に挙げるものは,例外的に相続財産には当たりません。

⑴ 一身専属権

民法は,被相続人の一身に専属したものは,相続人に承継されないと定めています。

一身専属権とは,個人の人格・才能や個人としての法的地位と密接不可分の関係にあるため,他人による権利行使を認めるのが不適当である権利のことをいいます。
例えば,扶養請求権や婚姻費用分担請求権などや,生活保護受給権,年金受給権,公営住宅の使用権などが,一身専属権に当たるとされています。

ただし,扶養請求権や婚姻費用分担請求権については,過去にすでに発生し,調停や訴訟により金額が確定しているものについては,一身専属権には該当せず,相続の対象になるとされています。

⑵ 祭祀財産

民法は,祭祀主宰者が祭祀財産を承継すると定めており,相続財産とは別個に承継するものとしています。
例えば,系譜,位牌,仏具,神棚,墳墓などが祭祀財産に該当します。
遺骨が祭祀主宰者に帰属するとした判例もあります(最判平成1年7月18日家月41巻10号128頁)。

祭祀主宰者は,①被相続人の指定により,②指定がない場合は,慣習により,③慣習が明らかでない場合は,審判により,定められます。
なお,被相続人によって祭祀主宰者として指定された者(①)は,これを辞退することもできるとされています。

⑶ 死亡退職金

公務員や民間企業の従業員の死亡に際して,勤務先から支払われる退職金です。

最判昭和55年11月27日民集34巻6号815頁は,退職手当に関する規程において,受給権者の範囲・順位につき,民法の規定する相続人の範囲・順位と異なる定め方をしている場合には,死亡退職金の受給権は相続財産には属さず,規程上の受給権者の固有の権利に属するとしています。

ただし,場合によっては,死亡退職金を特別受益として扱うこともあります。

⑷ 生命保険金

生命保険金は,受取人が相続人の一人であったとしても,相続財産には属さないとされています。
さらに,最判昭和40年2月2日民集19巻1号1頁は,受取人が「相続人」と定められている場合も,生命保険金は相続財産には属さず,相続人固有の財産になるとしています。

従って,相続人の中に相続放棄をした者があったとしても,その者は生命保険金を受け取ることができます。
また,相続人が複数いる場合,保険契約の約款上,各人が受け取るべき割合について定めがあれば,その定めどおりの割合で保険金を受け取ることができます。(均等の割合で受け取ると定めていることがほとんどです。)

ただし,場合によっては,生命保険金を特別受益として扱うこともあります。

4 被相続人の金銭債務

⑴ 金銭債務の承継

 金銭債務は,相続の開始により,当然に法定相続分に応じて相続人間で分割されるとされているため,当然には遺産分割の対象になりません。

被相続人の債務が連帯債務である場合も,当然に法定相続分に応じて分割されることになります。

例えば,AとBが400万円の連帯債務を負担していたとします。

そして,Aが亡くなり,妻aと子b,cが相続したとします(遺言なし)。
この場合,妻aの法定相続分は1/2であり,子b,cの法定相続分はそれぞれ1/4です。
したがって,400万円の連帯債務について,妻aは200万円の限度で負担し,子b,cは100万円の限度で負担するということになります。

保証債務についても,連帯債務と同様に,法定相続分に応じて当然に分割されることになります。

⑵ 承継されない債務

一部の保証債務については,相続による承継の対象になりません。

ア 根保証債務

継続的な関係から生じる不特定の債務を,保証人が担保するものです。
例えば,会社が金融業者から事業資金の融資を受け,社長が個人保証する場合に,一定の期間を定め,その期間内であれば何度でも借入れと返済を繰り返すことができることとし,その期間内に生じた不特定の債務を社長が個人保証することが,典型例です。
信用保証債務ともいいます。

かつて,判例は,保証限度額と保証期間の定めのない根保証債務について,特段の事由のないかぎり,相続人が承継するものではないとしました(最判昭和37年11月9日民集16巻11号2270頁)。
現行民法も,一定の根保証債務について,保証人の死亡により元本が確定するとの規定を置いており,相続人の負担を限定しようとしています。

ただし,賃貸借契約期間中に発生する,賃借人の賃料債務や損害賠償債務を保証する場合については,判例は,保証債務が相続の対象になるとしています(大判昭和9年1月30日民集13巻103頁)。

イ 身元保証債務

被用者が使用者に対して負う損害賠償債務を,保証人が担保するものです。

判例は,身元保証債務は原則として相続されないとしています(大判昭和18年9月10日民集22巻948頁)。

5 被相続人の契約上の地位

⑴ 契約上の地位の承継

被相続人の契約上の地位も,原則として,相続人に承継されます。

他方,民法は,一定の契約については,当事者の死亡により当然に終了するものとしています。
使用貸借(借主の死亡により),委任(委任者または受任者の死亡により),組合(組合員の死亡により)が,これに当たります。

⑵ 使用貸借契約について

使用貸借契約とは,無償で他人の物を使用する契約のことをいいます。
家族に対して好意で土地や建物の使用を認め,家族がそこに居住したり,事業を営んでいたりする場合は,使用貸借契約が締結されているものと扱われることが多いです。

民法は,借主の死亡により,使用貸借契約は終了するものとしています。

しかし,不動産について使用貸借契約が締結されている場合は,被相続人の死亡により,残された家族が即座に立ち退きしなければならないとすることは,残された家族にとって酷であることもあります。
このため,過去の裁判例の中には,借主が死亡したとしても,土地に関する使用貸借契約が当然に終了するということにはならないとしたものもあります。

とはいえ,同種の事案で裁判所が同様の結論を出すかは不透明であり,貸主との間で賃貸借契約を締結し直した方が妥当な解決となる場合も多いと考えられます。

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