3 遺言能力についての紛争を回避するために
遺言能力の有無については,明確な判断基準がなく,遺言者についての様々な事情を総合的に考慮して判断することになります。
また,遺言能力の有無は,相続開始後になって,相続人間で問題が顕在化することが多く,遺言能力の存在をどのように証明するかが問題となることも多いです。
このように,遺言能力についての争いが難しい問題を含む以上,遺言能力についての争いが予想される場合には,将来の紛争を回避するために,あらかじめ紛争回避のための手立てを講じておくことが必要であるといえます。
そのような手立てとして,第一に,遺言書作成時に弁護士などの専門家に関与してもらうことが考えられます。
相続人などから依頼を受けた弁護士は,遺言者と面会し,一定の聴き取りを行うなどして,遺言者の遺言能力の有無を確認することが多いです。
近年では,相続開始後に証拠を残すために,遺言者とのやり取りをビデオなどで記録しておくこともあります。
そのためにも,弁護士に遺言について相談するに当たっては,遺言能力の存否について懸念があることを,あらかじめ伝えておいた方が良いでしょう。
第二に,公正証書遺言を利用することが考えられます。
この場合,公証人は,公証役場で遺言者に対して一定の質問をし,遺言者の遺言能力の有無をチェックします。
相続開始後においても,関与した公証人に,遺言能力について証言してもらうことも考えられます。
(ただし,現実には,公正証書遺言が作成されたにもかかわらず,相続開始後に遺言能力が否定された例もあります。)