3 撤回の効力
⑴ 遺言の撤回
遺言Aが作成され,遺言Bにより遺言Aが撤回されたとします。
これにより,撤回された遺言Aは効力を失います。
その結果,遺言Aははじめからなかったのと同じことになります。
撤回された部分については,法定相続分の規定が適用され,遺産分割が行われることになります。
遺言の一部が撤回された場合についても,撤回された一部について,法定相続分の規定が適用されることになります。
遺言者が,法定相続分通りの相続を望まないのであれば,①別個に新たに遺言書Cを作成するか,②撤回を行った遺言書Bに,新たな(抵触する)内容を盛り込むかする必要があります。
端的に,後の遺言で,③「原遺言中,『○○を××に相続させる』を,『○○を△△に相続させる』に改める」とするのでも良いです(この場合,後述の前の遺言に抵触する遺言に当たり,撤回の効力が生じます。)。
⑵ 遺言の撤回の撤回
ア 民法の規定
遺言Aが作成され,遺言Bにより遺言Aが撤回されたとします。
これにより,遺言Aははじめから存在しなかったことになります。
その後,さらに,遺言Cにより遺言Bが撤回されると,民法上,遺言Aとともに,遺言Bもはじめから存在しなかったことになります。
遺言Aを撤回した遺言Bを撤回したからといって,遺言Aが復活するわけではありません。
この場合,新たに遺言がなされなければ,法定相続分の規定が適用されることになります。
イ 判例
とはいえ,遺言Cの趣旨から,遺言者が遺言Aの復活を望むことが明らかである場合でも,一律に遺言Aが復活しないとし,法定相続分に基づき遺産分割を行うこととすることは,妥当ではありません。
判例は,このような場合には,例外的に,遺言Aの効力の復活を認めています(最判平成9年11月13日判時1621号92頁)。