相続放棄
相続放棄のメリットとデメリット
1 相続放棄のメリット
ご自身が相続人になったときに、相続をするか、相続放棄をするかを選択することになります。
相続放棄をすることの一番のメリットは、被相続人の債務を引き継ぐことがなくなるということです。
相続するのであれば、被相続人の財産とともに、その負債も引き継ぐことになるのですが、相続放棄をすればこれを引き継ぐことはありません。
被相続人の相続財産には不動産があるものの、いずれも売却が困難なものであって、管理の費用がかかるだけのいわゆる「負の遺産」でしかない場合にも、相続放棄をすればこれを引き継ぐことはなくなります。
ここで注意していただきたいことは、「自分は財産を何も引き継がなかったから、相続放棄をしたといえるので、債務は引き継がない」ということにはならないということです。
たとえば、他の相続人と遺産分割協議を行い、自分以外の相続人が財産のすべてを取得することになり、自分は財産を取得しなかった場合にも、これは自分が財産を取得しなかったというだけで、債務の方は引き継ぐことになってしまいます。
仮に、自分以外の相続人が債務を負担する内容の遺産分割協議がなされていたとしても、そのような内容は相続人内部では有効であっても、被相続人の債権者がこの取決めに拘束されることはありません。
そのため、相続放棄をされたいという相続人の方には、家庭裁判所でしっかりと正式な相続放棄の手続きを取っていただく必要がありますので、ご注意ください。
二番目のメリットとしては、他の相続人との相続手続きに関わる必要がなくなるということがあります。
みなさまの中には、ご家庭の事情から、他の相続人と関係を持ちたくない、やりとりをしたくないという方もいらっしゃると思います。
しかし、亡くなった方が遺言書を書いていないなどの場合には、相続手続きのためには遺産分割をすることが必要になりますので、他の相続人からしても、関わりを持ちたくない相続人と遺産分割協議書の作成などのやりとりをせざるをえません。
相続放棄をすれば、相続人ではなくなりますので、遺産分割協議に参加する必要がなくなります。
ただし、相続放棄をしたとしても、他の相続人から「相続放棄をしたことの分かる書類(受理証明書)を送ってほしい」などと連絡がある可能性があるものの、このような書類は他の相続人が取得することのできるものですし、基本的には、手続きに関わる必要はなくなるといえます。
相続放棄をする場合には、「マイナスの財産の方が多そうだから」とか、「手続きに関わりたくない」だとかの合理的な理由が必要とされるわけではなく、「心理的に財産を引き継ぎたくない」という理由でも問題ありませんし、相続人それぞれが自らの判断で決めることができます。
2 相続放棄のデメリット
相続放棄の一番のデメリットは、被相続人のプラスの財産を引き継ぐことができなくなるということです。
「特定の財産は引き継ぎたいが、他の財産は放棄したい」といった選択をすることはできません。
そのため、経済的なメリットだけで考えると、プラスの財産よりもマイナスの財産の方が大きい場合には、相続放棄をした方がよいという考えになるといえます。
ただし、被相続人が契約者兼被保険者、受取人が相続放棄をする相続人である生命保険契約については、相続人は、相続放棄をしても生命保険金を受け取ることができますので、ご安心ください。
その他のデメリットとして、相続放棄をしたことで次の順位の相続人が相続人になってしまうということがあります。
どのような場合かというと、自分の親の相続において、自分の兄弟姉妹も含めて、子どもたちすべてが相続放棄をすると、子どもたちはすべて相続人ではなかったということになります。
この場合、自分たちの子どもが自分たちに代わって相続人になることはないのですが、自分たちの代わりに、次の相続順位である親の両親や兄弟姉妹が相続人になります。
そうすると、このような方々にも相続放棄の手続きをしてもらう必要があるということになるでしょう。
ご家庭の事情によっては、「自分の親のことで身内に迷惑をかけたくない」という方々もいらっしゃると思いますので、身内に手続きの面倒をかけてしまうということがデメリットとしてありえます。