遺言書を作成する際の注意点
1 遺言書を作成する際に注意すべきことはたくさんある
自分の相続対策のために、遺言書を作成しておきたいと思われる方は多くいらっしゃると思います。
ただ、弁護士としてお客様からのご相談に応じている経験からすると、ご自身で遺言書を作成されている場合に、遺言書が適切に作成されていたというケースは稀だと感じています。
相続というのは、人生で何度も経験することでもないですが、他方で、周囲から相続に関する話自体はよく聞くものでもありますので、専門家に相談をせずに自分で手続きを進めても大丈夫だろうと考えてしまいがちです。
相続を経験したことがあるという人からの話を聞いたといっても、相続に関する状況は千差万別ですので、その相続では適切だった対応方法が、他の相続において適切であるとはいえません。
そのため、相続対策のために遺言書を作成するという場合、遺言書を作成すること自体は相続において非常に効果の高いことではあるのですが、細心の注意を払って、遺言書を作成していただければと思います。
以下では、遺言書を作成する際の注意点について、いくつか紹介します。
2 方式をどうするのか
遺言書には、作成する方式がいくつかあります。
主なものは、自筆で作成する自筆証書遺言と、公証人に作成してもらう公正証書遺言というものがあります。
どちらがよいのかというのは、それぞれのケースによります。
自筆証書遺言は、遺言書を自分で記載する必要がありますので、高齢の方で字をたくさん書くのが難しいという方にとっては作成が容易ではない場合があります。
また、専門家に依頼をせずに自筆証書遺言を作成する場合には、法律上の要件を満たしているかどうかや、亡くなった後の相続手続きが円滑に進められる内容になっているかどうかなどの内容面での不備があるおそれがあります。
他方で、自筆証書遺言は、紙と筆記用具さえあれば作成をすることができますし、作成のための費用もほとんどかかりませんので、遺言書の内容を見直すことが予定されていたり、まずは手軽に作成してみたいと考えられたりされている方にとっては望ましい方式だといえます。
ただし、自筆証書遺言は、保管している過程で火災や地震などによって焼失したり、紛失をしてしまったり、家族にその存在が知られていなかったりするリスクがあり得ます。
このリスクに対しては、専門家に作成を依頼する場合には、専門家によっては事務所の金庫で保管をしてもらうことができる場合がありますし、法務局での保管制度を利用して、遺言書の内容を保管しておいてもらうことで、ある程度の対処が可能になっています。
他方で、公正証書遺言による場合においては、公証人という法律のプロに作ってもらえるので、法律上の要件を欠く遺言書を作成してしまうというリスクを避けることはできます。
遺言書の文案は公証人が作ってくれますから、遺言者は遺言の内容を伝えるだけでいいですし、作成の際には、署名と実印での押印をすればよいので、自筆の場合に比べて負担は少ないといえます。
遺言書の保管に関しても、作成した遺言書の原本は公証役場の金庫で保管してもらえますし、作成した際に通常渡される正本と謄本については、紛失してしまっても、後日、請求すれば作成してもらうことができます。
しかし、公正証書で遺言を作成する場合には、内容に応じて、遺言者や相続人の戸籍や、不動産などの財産に関する資料などを準備する必要があるため手間がかかる面がありますし、作成するためにはある程度の費用もかかります。
それに、基本的には、公証人は、遺言者にとって望ましい遺言の内容がどのようなものなのかということについてのアドバイスはしてくれませんので、このようなアドバイスを受けたいと思うのであれば、弁護士や税理士などの他の専門家に相談をする必要があります。
なお、公正証書の作成は公証役場で行うものですが、遺言者が寝たきりなどで外出できない場合には、作成費用は高くなりますが、公証人に自宅や施設まで出張してもらうことが可能です。
3 遺留分についての配慮をどうするのか
相続人の一部には、遺留分という権利が認められています。
遺留分というのは、遺言書の内容が平等ではなく、被相続人の生前の贈与などがあった場合に、相続人に認められた権利であり、遺言者であっても遺留分についての権利を奪うことはできません。
そのため、相続において、遺留分を侵害する内容の遺言書を作成すると、相続人同士でトラブルとなるリスクがあります。
そこで、遺言書を作成する際には、遺産全体や相続人の関係を確認し、この遺留分を侵害する内容となっていないかをチェックする必要があります。
ただし、遺留分を侵害する内容の遺言書を書いてはいけないというわけではありませんし、このような内容の遺言書であっても、法的には有効です。
場合によっては、どうしても財産を渡したくないという相続人もいるかと思います。
そのような場合であっても、残された相続人がなるべくトラブルに巻き込まれないように、あるいは、トラブルに巻き込まれたとしても、なるべく被害を負わないようにする工夫が必要です。